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通訳酬酢

近世日朝交流史料叢書 Ⅰ
通訳酬酢

[編集・校注] 田代和生

定価6,380円(本体5,800円) 
ISBN 978-4-8433-5167-3 C3321 NDC:210
A5判/並製/カバー装
刊行年月 2017年10月

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本書の内容

江戸時代の日朝関係を担った対馬藩通詞と朝鮮訳官が交わした、 政治、制度、外交、女性、音楽、礼儀作法等数々の問答集。原文編を翻刻し、解読編も併記する。さらに詳細な解説、註及び索引を附す。日朝交流にかける人々の思い、心の深層まで読み取ることができる。

※通訳酬酢・・・「酢」は本来は酉へんに作 「つうやくしゅうさく」と読みます。

「近世日朝交流史料叢書」 刊行にあたって   田代和生

 歴史研究の深化を支えるのは、良質な史料との出会いにある。近世日朝交流史研究に限れば、基礎的な史料として日朝関係を取り仕切った膨大な対馬藩宗家の記録類がある。国内外七か所に分割保管されている宗家記録のなかで、最大の蔵書点数を誇るのが対馬藩府中(対馬市厳原町)に伝わった宗家文庫本である。かつて木造の倉庫に雑然と積み上げられていたこの史料は、一九七九年より厳原町教育委員会が整理作業を開始し、断続的に約三十年の歳月をかけて、二〇一二年に古文書・古記録・絵図類など八万三千点に及ぶ目録を完成させたことで利用が容易になった。また一九九八年より、朝鮮通信使記録(韓国国史編纂委員会本・慶應義塾図書館本)、倭館の館守日記(国立国会図書館本)、裁判記録(同上)、江戸藩邸記録(東京大学史料編纂所本)など、各保管所の基礎的な史料の全冊がゆまに書房によってマイクロフィルム出版され、研究者への便宜が図られた。
 ただし宗家記録以外にも、日本国内外の図書館や資料館、あるいは個人の家にも貴重な関連史料が数多く現存している。しかもこれらの史料は、総て難解な古文書で書かれており、中には漢文やハングル史料も多く含まれている。解読するための特別な訓練を受けた者は良いが、他分野の研究者や外国人研究者からみれば、それはいまだに近づきがたい状態にあるといえる。五十年間にわたる研究活動の中で、近世日朝交流史研究にかかわる珠玉のごとき貴重な史料との出会いがあり、それをいつの日か表舞台に登場させ、専門家だけでなく、必要とする総ての方が理解できるように配慮した史料集の刊行をかねてから願ってきた。
 本史料集は、近世日朝交流史関係の膨大な記録の中から、とくに重要と思われるものを精選し翻刻するものである。収録の対象は、日朝間の交流現場で様々な役職に従事する者の記録に限定した。具体的には、朝鮮国への使節随行員による日記、対馬藩朝鮮方に伝わる記録、朝鮮語通詞による編纂書などである。これらを通読すれば、激動の時代に展開された日朝外交の実態、日本人居住区倭館の詳細、交流現場に常に介在した朝鮮語通詞の養成から活動内容、通訳官同士が交流現場で交わした会話の数々、などが明らかにされる。より広い読者にこの史料の面白みを理解していただくために、日本語(古文書)で書かれたものは、原文の校訂文と読み下し文、それに文意を把握できるような詳しい註を付した。漢文やハングル文は、状態が良ければ原本の影印版を用い、読み下し文、現代語訳・註によって内容が分かるように配慮し、その分野の専門家のご協力を仰いだ。
 異文化との交流を通じて生まれた相互理解は、国際交流の原点ともいうべき「国家」「社会」「人」とは何かを問いかけている。これは現代の複雑な国際関係を理解することにも通じることで、あらためて良質な史料に基づく歴史認識の重要性を喚起させ、その手がかりとなる第一級史料の発掘と解読はさらに重要なものとなっていくと確信している。

本書の特色と内容

●著者・小田幾五郎と『通訳酬酢』
 小田幾五郎(1755~1831)は対馬藩の特権的名門商人「古六十人」の一族で、朝鮮語大通詞にまで昇進。通詞として秀でただけでなく、誠実で政治的な交渉能力にも長け、倭館館守を4期勤めた戸田頼母に重用されるが、藩内部の争いにまきこまれ禁足の刑を受ける。晩年、後輩通詞のためにまとめた書『通訳酬酢』が本書である。
 「酬酢」とは「応対する」の意味で「酉へんに作」の本字は「酢」。

●様々な分野に及ぶ日朝問答集
 本書は、朝鮮外交を担った朝鮮側の訳官と対馬の通詞の問答集。内容は、外交、歴史、地理、政治、経済、制度、産業、交通、情報、宗教、思想、教育、文学、美術、音楽、食物、自然、怪奇現象等々、さらに為政者から庶民階級にいたる人々の行動や考え方、礼儀作法に迄及ぶ。日朝外交の第一線にいる通訳官同士の本音が伝わる一級史料。

●対馬藩の「朝鮮語通詞」とは
 対馬藩でも実際に交渉役を担った「通詞」は、武士ではなく、必要に応じ藩が雇いあげた商人であった。特権的商人のうちから厳しい訓練をへて「朝鮮語通詞」が選ばれ、藩営の通詞養成所で英才教育が行われた。

●朝鮮の「倭学訳官」とは
 国家試験(雑科)に合格し日本文化にも精通する教養人の訳官だが、身分的には両班と常民(平民)の中間階層。彼らの悩みも問答の中に描かれている。

●底本・韓国国史編纂委員会所蔵本
 本書は小田幾五郎著『通訳酬酢』(3冊12巻)の全文を翻刻。底本は自筆原本である韓国国史編纂委員会所蔵本(対馬宗家文書記録類4313~4315)を用いた。このうち欠本である「巻八 官品の部」は旧本『通訳実論』(長崎県対馬市鍵屋歴史館所蔵)で補った。

●「解読編」「原文編」に分けて収録
 「解読編」は、原文に句読点を付して読み下し、難解な語句には註を付して解説。漢字は常用漢字に改めた。原文に従い、「通曰く」「訳答る」等会話の主を文頭に出し、説明部分は改行して会話部分と区別した。「原文編」は、底本を原文どおりに翻刻した。

●編者による詳細な解説と索引を附す
 巻末に編者による詳細な解説を収録。また、史料活用の便をはかるため、索引を附した。

目次(部分)
●通訳酬酢  解読編
序 書 
一 風儀の部  二 風楽の部  三 船上の部
四 外国の部  五 乾坤の部  六 浮説の部
七 武備の部  八 官品の部  九 女性の部
十 飲食の部  十一 酒礼の部 十二 礼儀の部
●通訳酬酢  原文編 
●解説:小田幾五郎と『通訳酬酢』
●索 引

『近世日朝交流史料叢書』今後の予定 ※刊行年月・定価は未定です。
◆近世日朝交流史料叢書 Ⅱ
『御上亰之時毎日記』筆者不明 (寛永6〈1629〉年)
『方長老上京日史』規伯玄方 著(寛永6〈1629〉年)
『方長老上京往復書簡』 阿比留恒久 編
 (寛永4〈1627〉年~寛永7〈1630〉年)
『飲冰行記』鄭弘溟 著(仁祖7〈1629〉年)
◆近世日朝交流史料叢書 Ⅲ
『朝鮮行日誌』筆者不明(明治5〈1872〉年)
◆近世日朝交流史料叢書 Ⅳ
『斛一件覚書』雨森芳洲ほか編(宝永5〈1707〉年)
『詞稽古之者仕立記録』雨森芳洲 著(元文元〈1736〉年)
『韓語稽古規則』朝鮮語通詞 編(明治前期)
◆近世日朝交流史料叢書 Ⅴ
『贅言試集』筆者不明(近世後期)
『草梁話集』小田幾五郎 著(文政8〈1825〉年)
『象胥紀聞拾遺』上・下 小田管作 著(近世後期)

NDC:210