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未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 全11巻

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 全11巻

[監修] 高澤憲治 [解題・解説] 吉川紗里矢

揃定価327,800円(揃本体298,000円) 
ISBN 978-4-8433-5169-7 C3321
A5判/上製
刊行年月 2017年07月

関連情報

本書の内容

現存する未刊史料を 影印で網羅。公開されたばかりの桑名松平家文書から、寛政改革と松平定信の全容に迫る—。

刊行にあたって  高澤憲治

 松平定信は宝暦八年〔一七五八〕に田安徳川家に宗武の子として生まれた。”貴種“である彼は成長後、陸奥白河藩主松平定邦から、家格を表わす殿席を帝鑑間席から溜詰へ昇格するための手段として、養子に迎えられた。飢饉のさなかの天明三年〔一七八三〕、白河における打ちこわしの発生を機に相続し、藩政改革に着手した。その際、藩祖である定綱を祀る御霊屋を建て、後裔である自分に対する忠誠を藩臣に促そうとしたが、彼らの不満は持続する。
 彼は当時の幕政に疑問を抱くとともに、多発する民衆蜂起に外国が乗じることを恐れた。そこで、田沼政権を打倒するため、田沼意次に対する贈賄工作により溜詰に昇格し、その政治顧問的任務を利用しようとした。同時に、改革の模倣を望む大名に対して、大名としての心構えを説きつつ、反田沼意識を煽って党派を結成した。
 将軍徳川家治の死去による田沼の失脚後、一橋治済が実子である新将軍家斉のために、定信による幕政改革を切望した。その結果、同七年の江戸打ちこわしを機に定信は老中に就任し、次いで将軍補佐を兼任した。さらに、同志を要職に登用する一方、御三家と治済に対して諮問しつつ、政治を運営した。こうして、農村の復興・備荒貯蓄の整備・文武の奨励・海防計画の策定など諸政策を推進した。寛政二年〔一七九〇〕には長期在任と引き替えに、将来の溜詰昇格が内定している。溜詰には、彦根の井伊家・会津の松平家・高松の松平家のように、歴代が必ず溜詰となる”常溜“の家格と、歴代のうち人物により溜詰となる”飛溜“の家格があるが、後者である。
 幕政改革に対する人々の反感が高まるなかで、彼は改革の貫徹をめざして独裁的傾向を強めたうえ、大老就任を狙った。しかし、同五年に依願辞任し、少将昇進、”飛溜“昇格などにより功労を賞されたが、内実は解任であった。
 ところが、世間に対しては依願辞任を装い、藩臣に対してはその狙いもあって、ことさら溜詰昇格の実現を誇示している。また、将軍から拝領した下屋敷を浴恩園、蓮を植えた場所をたま(賜)もの池とそれぞれ命名し、将軍からの恩顧を強調している。
 以後は、藩政に尽力しつつ、『集古十種』の編纂など文化事業を推進した。文化三〜四年〔一八〇六〜七〕のロシア船による蝦夷地襲撃に際しては、幕府に意見書を提出し、同七年には房総の海防を拝命したものの、藩財政の悪化を招いた。同九年には隠居して浴恩園に住み、文政一二年〔一八二九〕に七二歳で死去したが、直前には”常溜“昇格を願って却下された。
 彼は自らを名君として後世に伝えるため、自伝を執筆したうえ、生前から側近に伝記を編纂させた。それらのなかでは白河での打ちこわしや、藩臣の不満、辞任の真相など不都合な事柄を隠蔽した。さらに、自作の戯作は破棄した。彼の目論見は成功したものの、第二次大戦後には研究の進展により、次第に実像が現れつつある。一例として、ゆまに書房が以前刊行した『松平定信蔵書目録』からは彼の関心や嗜好がうかがえる。
 『未刊松平定信史料』第一期に収載する「定信公御勤書」や「古格勤例」などからは、殿席が変化しつつも、儀礼を先例にもとづき着実に勤めたことがうかがえる。「溜之間御詰御昇進之一件」は、自分の功績を伝えるために作成させたものである。「(御三家など応対扣)」は、改革における政治運営の特色を伝えている。「続由緒」は「天明由緒」の続編であり、定信を支えた藩臣の活動がうかがえる。
 このたびの刊行により、定信の実像や白河藩政、幕府の儀礼などの解明が、いっそう進展することであろう。

◆本書の特色◆

<新出史料を収録>
 松平定信は、寛政改革を主導した老中としてのイメージが強い。しかし、生涯のほとんどは大名であり、その活動はあまり知られてなかった。近年、彼の治世下における白河藩政の実情が解明されつつある。今回、慶應義塾図書館が、桑名松平家文書の目録を公開したことにより、従来知られてなかった定信関係史料の存在が明らかになった。本書は、そこから重要な未刊史料を収録する。

<松平定信を多角的にみる>
 収録予定の桑名松平家文書は、現在その多くが慶應義塾図書館と天理大学附属天理図書館に所蔵されている。前者は、定信以降の歴代藩主の文書を中心として、殿席関係の記録や編纂物、京都所司代関係文書、桑名藩の家譜集などを所蔵している。後者は、松平定信自身の著作を中心として、花月日記・書状・心得・和歌などを所蔵している。本書では、慶應義塾図書館所蔵史料の内、松平家の家格上昇交渉や江戸城内での行動を記した儀礼記録などを収録する。これらの史料は、寛政改革期の基礎史料であるだけでなく、一大名であった松平定信の新たな一面を明らかにするのに役立つだろう。

<寛政改革期における政治的重要史料を初めて収録>
 戦後、定信研究は自伝「宇下人言」や伝記『楽翁公伝』の史料批判の上で展開した。しかしながら、今日においても政治史上重要な史料は、論文に引用されたものを参考にしなければならない状態にある。本企画の調査により近代写本ではあるものの、定信が御三家や老中に廻した政治的意見書を発見した。これは水戸徳川家文書の「文公御筆類」と同類の史料である。本書はもちろん第㈼期以降、他の所蔵機関からもそうした史料を影印出版することにより、その全容を把握することが可能になるだろう。

【収録史料】
●「定信公御勤書」
 松平定信が大名として江戸城の儀礼的な勤務を行った際に、その行動を図示した史料。天明期から文化期までが収録されている。これにより、定信の家格昇進によっていかに江戸城での勤務が変化したのかが分かる。それだけでなく、寛政改革以前において定信がいつ江戸城に登城していたのかという基礎的な情報もうかがえる史料。
●「古格勤例」「常時勤例」「不時勤例」「勤例類彙」
 天明期の定信が、殿中儀礼の記録を編纂したもの。「勤例類彙」には将軍家に関わる儀礼などを、「常時勤例」は通常の年中行事を、「不時勤例」は特別な行事を収録している。こうしたマニュアルをもとにして、定信は礼儀正しく江戸城の儀礼に参加できたと考えられる。
●「溜之間御詰御昇進之一件」
 定信は、溜詰大名への昇格を期待されて松平家の養子となった。その期待に応えた定信は、老中解任時になってようやく昇格を実現した。こうした寛政期の家格昇進に関わる史料。
●「続由緒」
 松平定信が藩臣に提出させた「天明由緒」の続編。「天明由緒」の様式を継承し、天明期から嘉永期までを収録している。定信の老中就任前後において、藩臣たちがいかに活躍したのかを把握するために、有益な基礎史料である。
●「(御三家など応対扣)」
 定信はみずからの政治的意見書を同僚の老中や御三家に廻すことで、改革を主導していた。こうした意見書の内容が分かる史料として、従来水戸徳川家に残された「文公御筆類」があり、本史料はその類本の近代写本である。

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第1回配本 全5巻

刊行年月 2017年07月 揃定価152,900円 (揃本体139,000円) ISBN978-4-8433-5170-3

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第1巻 定信公御勤書 一〜六/古格勤例

刊行年月 2017年07月 定価25,300円 (本体23,000円) ISBN978-4-8433-5172-7

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第2回配本 全6巻

刊行年月 2017年12月 揃定価174,900円 (揃本体159,000円) ISBN978-4-8433-5171-0

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第6巻 溜之間御詰御昇進之一件 一〜五

刊行年月 2017年12月 定価28,600円 (本体26,000円) ISBN978-4-8433-5177-2

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第7巻 溜之間御詰御昇進之一件 六〜九

刊行年月 2017年12月 定価27,500円 (本体25,000円) ISBN978-4-8433-5178-9

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第9巻 続由緒 1〜5

刊行年月 2017年12月 定価25,300円 (本体23,000円) ISBN978-4-8433-5180-2

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第10巻 続由緒 6〜9

刊行年月 2017年12月 定価30,800円 (本体28,000円) ISBN978-4-8433-5181-9

未刊 松平定信史料 第Ⅰ期 慶應義塾図書館所蔵史料 第11巻 続由緒 10〜12

刊行年月 2017年12月 定価30,800円 (本体28,000円) ISBN978-4-8433-5182-6