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吉祥図案解題 ― 支那風俗の一研究 ― 全2巻(分売不可)

吉祥図案解題 ― 支那風俗の一研究 ― 全2巻(分売不可)

[原著者] 野崎誠近 [監修] 宮崎法子

揃定価33,000円(揃本体30,000円) 
ISBN 978-4-8433-3249-8 C3371
A5判上製/函入
刊行年月 2009年07月 ※品切れ

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本書の内容

中国の民間に伝わる吉祥図案の豊かな世界。185種400点の吉祥図案を、題意・構図・構成・寓意・典拠とともに紹介。

 『吉祥図案解題 ― 支那風俗の一研究』は、中国文化を敬愛し、その日常を共に生きたひとりの日本人によって世に送り出された。それは、中国の人々の暮しに根付いた幸福のシンボル(文様や意匠)から一八五項目を選び分類し、出典典故を研究し、これらを「吉祥図案」と名づけて一書に編んだ学術的意義の高い労作であり、今日でも基礎文献としての地位を失っていない。
 一九二八(昭和三)年、著者・野崎誠近氏は、自らが総理を務めていた中国土産公司〈天津〉より本書初版を上梓、その十二年後の一九四〇(昭和十五)年に図版を全面的に差し替え、内容を補訂して再版した(本企画は再版本の覆刻)。本書に掲げられた題や序跋には ― それらは日本や満洲国建国に深く係わった中国側の要人(段祺瑞・鄭孝胥・王揖唐・王賢賓・■鐸)からも寄せられており、当時の天津の日本租界で交錯していた政治状況の一端をも窺わせるが ― 本家本元である中国人自身にとっても、吉祥語や吉祥図案が〈過去の伝統〉になりつつあることへの警鐘と、同時に、日本人にとっても自国の文化の豊な源泉を辿ることが、中国への深い理解へと繋がるようにとの希望が託されている。
※■は「門」の中に「敢」

【本書の特色】
●オリジナル索引「題名索引(字画数順)」「画材索引(字画数順)」付き。

●日本美術史・東洋美術史全般、国文学、文化史、風俗史、民族・民俗学の研究資料として。

●古典籍に関わる伝統技術分野、保存修復のための参考資料として。

●美術工芸品鑑賞や趣味の手引書として。

収録吉祥図案の例

1平安如意 2事事如意 3百事如意 4万事如意(万年如意)  5新韶如意[附]歳朝清供 6吉祥如意 7和合如意 8竹報平安(家信平安)[附]一枝春信報平安・平安長春 9歳歳平安 10四季平安[附]四季発財・呈祥献瑞 11馬上平安(馬報平安)12雙福 13五福捧寿 14五福和合[附]五福来朝 15納福迎祥 16榴開百子[附]百子図 17華封三祝[附]天然如意 18多福多寿多男子(三多) 19多福多寿 20福在眼前 21福寿雙全[附]福寿綿長 ほか
(※収録吉祥図案185種は、カタログPDFでご覧いただけます)

著者略歴

野崎誠近 (のざき のぶちか) 
明治十七年生れ。明治三十八年六月に中国に渡り、保定市商品陳列所の天津市直隷考工廠に留学、高島屋飯田合名会社天津支店、義大洋行、天津普信洋行、中国土産公司の総理、王揖唐の顧問、冀察政府政務委員などを勤める。昭和十四年八月に華北房産を設立、取締役に就任。また事変突発とともに軍の特務部に入り、次いで興亜院華北連絡部に勤務。その傍ら北支那開発嘱託東亜経済懇談会の華北本部理事、天津共立学校理事、天津図書館評議員、仏教同願会顧問、中国仏教学院董事会員、天津居留民団民会議員などの諸職に就いた。中国事情研究を趣味とし、『吉祥図案解題 ―支那風俗の一研究』を著した。(参考文献/『中国紳士録』昭和十七年 第二版 編纂兼発行者:中西利八 発行所:満蒙資料協会)

[監修者]
宮崎法子 実践女子大学文学部美学美術史学科教授・中国絵画史
(※本データはこの書籍の刊行当時のものです)

★「編集部便り」より  ―「幸福、口福。」(編集部Y)

 仕事をきっかけとして新しいものに関心の眼が向くというのはよくあることと思います。私のばあい、今年の7月に『銅像写真集 偉人の俤』と並行して担当した『吉祥図案解題』がそれでした。この『吉祥図案解題』は戦前の天津で貿易商として活躍した野崎誠近氏が、親交のあった日中両国の研究者の協力を得ながら、現地の人々の暮らしに息づく装飾や図案185種類を「吉祥図案」と名づけて纏め上げた、とても丁寧な仕事です。詳細は復刻版「解説」に譲るとして、さて、私が気になるようになったのは何かというと、神田西口商店街とその界隈に乱立する中華料理店です。ちょうど今回のメルマガ担当ということもあり、お昼休みにさっそく顔馴染みの店へ出かけました。

 中国語が飛び交う店内で料理が運ばれてくるまでの間、しばしあたりを観察……壁には天地逆さまの「福」の文字の貼紙、器の回紋はおなじみですが、じっくり見てゆくと色々なものが眼に飛び込んできます。椅子の背もたれの透かし文様(龍らしき生き物)、天井には赤い殻付きの落花生が糸に繋がれ、縦横に張り巡らされていました。天井一面に赤い落花生がぶらぶらと垂れ下がっていて、藤棚ならぬピーナッツ棚です。しかしなぜ落花生が…? 忙しい店員さんをつかまえるのも憚られ、机に戻ってから『吉祥図案解題』をぱらぱらめくって調べてみました。すると、ありました、「長生不老 落花生の図」。説明によると「落花生は俗に長生果と称す。其根を牽けば鈴生りに累々として絶えず、且何時迄も生々として腐らぬ若さあり、又美味滋養に富みて長命不老と賞味さる。」なんとも素晴らしいお豆です。 
 ためしに秋の味覚のひとつ、柿を調べてみると、「事々如意 柿二個と如意の図」「百時如意」「新韻如意」「百事大吉」の4つが取り上げられています。「柿は事と同音同声(Shih)にして、二個にて柿々即ち事々を寓意」し、「事」と同音異声に「獅」(Shih)があるので、「柿」の代わりに「唐獅子」を描くこともあります。さらに、柿は七つの徳を備えた果物だとか。「唐の段成式の酉陽雑爼に〈一には木の寿命長し、二には樹蔭多し、三には鳥が巣を作らず、四には蟲が付かず、五には紅葉賞翫すべし、六には立派なる果実が生り、七には其の落葉が殊の外大きい。〉」。柿の蔕だって捨てたものではありません。「柿蔕紋」は建築に多く用いられるそうで、「所以は、爾雅翼に〈木の根の中にても柿が最も固ければ、俗に之を柿盤と云ふ。〉とあり、地盤の堅固、丈夫を寓すべければなり」云々。幸せを願う人間のエネルギーたるや、心打たれます。さいごのおまけ、モンブラン・ケーキや栗しぼりで楽しむ「栗」も、「栗子」「立子」(LiTzu)と同音同声で「戦慄自正を意味す」るそうです。
 天高く馬肥ゆる秋。幸せでお腹も心もいっぱいにして、残り少ない2009年を乗り切りましょう。(2009年11月)