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叢書エログロナンセンス 第Ⅳ期
昭和初期軟派雑誌集成 全16巻【new!】
揃定価381,700円(揃本体347,000円)
ISBN 978-4-8433-6832-9 C3390
A5判/判上製/カバー
本書の内容
昭和のエログロナンセンスを彩る重要な雑誌群を復刻。
佐藤紅霞や藤澤衛彦ら、文献派を集めた『奇書』。花房四郎(中野正人)、宮本良ら、文藝資料研究会編輯部による『古今桃色草紙』。『変態・資料』の後継誌をうたった『変態黄表紙』、竹内道之助の風俗資料研究会による『風俗資料』、そして酒井潔の個人誌と『談奇』。『風俗資料』廃刊後に創刊され、丸木砂土や原比露志、岡田甫、酒井潔が筆を執った『デカメロン』などの軟派雑誌を集成する。
刊行にあたって 「三派鼎立」期における 軟派出版の全貌 島村 輝
『叢書エログロナンセンス』は、戦前ジャーナリズム界の異才・梅原北明を中心とした「珍書・奇書」類のうち、発刊当時の事情やその後の年月の経過によって閲覧・入手の困難となった書物、とりわけ多く「発売禁止」等の措置を受けた雑誌類を中心にして、復刻刊行しようとするものである。シリーズに先行した『変態・資料』を併せ、これまで3期にわたる刊行で北明が大きな役割を果たした雑誌はほぼ網羅したといえる。
今回の第4期では、一時は北明と行動をしながらその後袂を分かった出版ジャーナリストたちの手によって刊行された、『奇書』『古今桃色草紙』といった雑誌群を復刻する。文芸市場社(梅原北明)・文芸資料研究会編輯部(上森健一郎)・ 文芸資料研究会(福山福太郎)による「三派鼎立」期とされる軟派出版の分裂・消長の底流に、どのような人脈が存在していたのかを明らかにすることで、当時のアウトサイダー的な出版人・知識層が目論んだ、サブカルチャー領域からの権力批判、文明批評の可能性と限界についても、考察の新たな糸口が見いだされることが期待できると考える。
(しまむら・てる フェリス女学院大学教授)
昭和初期軟派雑誌集成の刊行にあたって —20年間の軌跡 大尾 侑子
『叢書エログロナンセンス』の第1期として、雑誌『グロテスク』の復刻が実現したのは2015年のこと。そこから遡ること約10年、同シリーズの先駆けとなる雑誌『変態・資料』(2006)、『世界エロティシズム文学 歴史と解題』(2006)が刊行された。いずれも戦前昭和における「好色出版の帝王」、梅原北明が関与したものである。
復刻される以前、これらの雑誌や書籍を入手し所有できたのは、蒐集家か古本マニアくらいだっただろう。通販サイト「日本の古本屋」が本格的に始動する2000年代まで、稀覯史料は地道な古書店めぐりか、即売会で 拾う ほかなかった。2005年刊行の『コレクション・モダン都市文化 エロ・グロ・ナンセンス』も含めるならば、今回の第㈿期に至る20年間は、そうした障壁を少しずつ取り除き、稀覯史料へのアクセスを整える、開拓の軌跡であったと言える。
今回の第4期では、北明の周辺を彩った出版人らによって刊行された雑誌群を集成した。第1回配本は、北明と袂を分かった福山福太郎による『奇書』、および上森健一郎を中軸とする『古今桃色草紙』を収録。『奇書』は佐藤紅霞や藤澤衛彦ら文献派を集め、『古今桃色草紙』は花房四郎(中野正人)、宮本良らを編輯に据え、文藝資料研究会編輯部による起死回生の一手であった(いずれも発禁号を含む)。
第2回配本は『変態・資料』の後継誌をうたい、鳥の子紙刷が目を惹く『変態黄表紙』、竹内道之助の風俗資料研究会による『風俗資料』、そして酒井潔の個人誌として伊藤竹酔の国際文献刊行会から刊行された『談奇』を収録する。
第3回配本は、『風俗資料』廃刊後に「高級エロ雑誌」として創刊され、丸木砂土や原比露志、岡田甫、酒井潔らが筆を執った『デカメロン』を収録する。以上の雑誌群を往還することで、戦前軟派出版界の最期がありありと浮かび上がってくるはずである。
雑誌が紡いだ作り手と会員読者の紐帯に想いを馳せ、知の豊穣さを体感しよう。そして出版弾圧の痕跡を刮目し、新たな「戦前」とも言われるような緊張をはらむ時代を生きる我々に向けられた、過去からの警句にも耳を傾けよう。(おおび・ゆうこ 東京経済大学准教授)