中国学術文庫 ②
敦煌の仏
― 莫高窟一千年の歴史と芸術
定価10,230円(本体9,300円)
ISBN 978-4-8433-6961-6 C1371
上製/カバー装
刊行年月 2025年05月(予定)
本書の内容
敦煌莫高窟の芸術に魅せられ、その調査と研究に生涯をささげた敦煌研究院名誉院長、段文傑。その主要論考の内、莫高窟の芸術と歴史を理解する上で特に重要な九編を収録。著者による模写図版も多数収録
発行=樹立社
発売=ゆまに書房
目次
口絵28頁(オールカラー段文傑模写図版)
第一部
第一章 十六国・北朝期の敦煌石窟芸術
第二章 唐代前期の莫高窟芸術
第三章 唐代後期の莫高窟芸術
第四章 晩期の莫高窟芸術
第二部
第一章 敦煌早期壁画の様式的特徴と芸術的達成
第二章 莫高窟隋代壁画研究
第三章 敦煌石窟初唐壁画の概況
第三部
第一章 敦煌壁画における衣冠服飾
第二章 玄奘取経図研究
段文傑学術年表/参考文献/監訳者あとがき
監訳の言葉 向井佑介
著者の段文傑氏は、長らく敦煌文物研究所に勤務して壁画の模写と調査研究に尽力し、敦煌研究院への昇格後はその初代院長を務めた。1980年から1982年にかけて平凡社から刊行された中国石窟シリーズの『敦煌莫高窟』全5巻では、段文傑氏による総説がそれぞれの巻頭に掲載されており、まさに新中国における敦煌研究を牽引してきた人物である。画家としての才能も高く評価されており、自身で模写した敦煌壁画は四百幅ちかく、その一部は本書の口絵となっている。さらに、本書の年表に記載されるように、小説家の井上靖氏や画家の平山郁夫氏とも交流があり、日本の文化人とも関係の深い研究者といえるだろう。
本書は三部構成で、全九章からなる。第一部は五胡十六国・北朝から唐代前期・後期、さらに五代以降の晩期まで、各時期の石窟の概況とその様式的特徴を整理したもので、これを通覧すれば、莫高窟の芸術を通史的に理解することができる。第二部では早期窟・隋窟・初唐窟をとりあげ、それぞれの石窟壁画の特徴についてより深く考察することで、第一部の内容を補完している。第三部には各論ともいうべき二編の論文が収録され、敦煌壁画の衣冠服飾と玄奘取経図という二つの重要なテーマを掘り下げて考証している。全体として、壁画を中心とした莫高窟の芸術とその歴史を、あますことなく論じている。
実のところ、本書に収録される九編の論考は、段文傑氏の晩年の論文集『敦煌石窟芸術研究』(甘粛人民出版社、2007年)にすべて収録されており、中国美術史の研究者にとって、本書の内容は必ずしも新しいものではない。ただし、『敦煌石窟芸術研究』は二十編以上を収録した中国語の論文集であり、専門の研究者でもこれを通読するのは骨が折れるし、重複する内容をもつ論文も少なくない。そのなかから、敦煌莫高窟の芸術と歴史を理解する上で特に重要な九編を抽出した本書こそ、段文傑氏の研究の神髄を伝えるものといえるだろう。不思議なことに、現時点で本書の中国語版『佛在敦煌』(中華書局、2018年)は、日本の主要な大学や図書館にほとんど収蔵されていない。その意味でも、本書が日本語版として刊行される意義は大きい。
(京都大学人文科学研究所准教授╱「監訳者あとがき」より抜粋)