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• 「毎日新聞外地版　全84巻」のカタログはこちらです。（pdf/8,930KB）

本書の内容

昭和前期、朝鮮、満洲・大陸、台湾で発行され、 西部本社に保存されていた 毎日新聞「外地版」（一九二六年一二月〜一九四四年九月）を復刻。

※各本体35,000円

　監修のことば　　　立命館大学社会システム研究所上席研究員 坂本悠一

　このほど、ゆまに書房より好評刊行中の『朝日新聞外地版』（第1期完結・第2期二〇一五年完結予定） のいわば姉妹編として、『毎日新聞外地版』の刊行を開始することになった。『毎日新聞』は、明治五（一八七二）年創刊の『東京日日新聞』（東日）を源流とし、現存する全国紙としては、最も古い歴史を有している。『東日』紙は一九一一年三月、在阪二大紙のひとつ『大阪毎日新聞』（大毎・一八七六年二月『大阪日報』として創刊され、八八年一一月に改題）に合併されるが、その後も一九四三年一月まで『東日』『大毎』の紙名で、大阪毎日新聞社から発行されてきた。この点、『大阪朝日新聞』の資本蓄積により一八八八年七月『東京朝日新聞』として東京に進出した朝日の場合とは、やや趣を異にする。一九一八年のいわゆる「米騒動」後の両紙の発行部数は、尾藤貞一の推定によれば、大阪付近では、朝日がやや優勢、しかし、「九州より満、鮮（朝鮮では大毎四三、二〇〇部にたいし、大朝三二、四〇〇部）に於ける同社（毎日）の勢力は偉大」（『日本及日本人』第七三号）。このようにして、いい意味でも悪い意味でも、大阪を拠点とした朝・毎両紙は、いわゆる「追い着け、追い越せ」競争の掛け声のもと、戦前期の二大マスメディアとして斯界に君臨し、そして「日本帝国」の植民地・勢力圏向けに「外地版」なる特異な紙面を提供しえたのも両紙のみであった。
　そして両紙とも、その編集・発行の拠点としたのは、北九州の門司市に設置された「西部支社」もしくは「西部本社」であった（朝日は三七年一〇月小倉市に移転）。毎日の場合、一九二二年三月、門司に「西部連絡部」を開設、同年一一月には『西部毎日』（「鮮満版」「朝鮮版」を含む）の発行を開始した。二八年七月には「朝鮮版」を「朝鮮毎日」と改題、同時に紙面を「南部版」（計八道）「北部版」（計五道）と二分割した。さらに三〇年六月、「朝鮮毎日」を「大阪毎日新聞朝鮮版」と改題、同時に二版制をＡＢＣの三版制に増版した。この間、外地の取材網としては、一九一九年一一月京城支局、二三年三月北京支局、二四年九月台北支局、二五年三月大連支局、三〇年一一月西鮮支局（平壌）などを開設した。なお、『大毎』本紙朝夕刊と「朝鮮版」「満洲版」を含む地方版計一二版の、門司での編集・印刷の開始は、朝日と同様一九三五年二月一一日付のことであった。また「朝鮮版」（一九三九年五月より五版制に拡充）のほかに、「満洲版」（一九三四年一二月）、「台湾版」（三五年六月）、「大陸版」（三八年一月）なども発行されたようであるが、その全貌は目下精査中である。なお同社は戦後の一九六一年二月、門司の西部本社社屋火災事故により「新聞保管書庫」が焼失し、例えば一九四二年二月分の「朝鮮版」が完全に欠落している。 　
　さて、一時は日本の三大全国紙の西部本社が置かれた「新聞都市」としての北九州・小倉、また朝・毎両紙の外地版のもつ史料的価値などについては、すでに『朝日新聞外地版』の「監修のことば」で触れているのでここでは繰り返さない。最後に、朝鮮総督府の治安部局が作成した統計で、朝・毎両紙の朝鮮での発売部数を確認しておきたい。まず一九二九年に内地から移輸入された新聞のうち、『大阪毎日新聞』がトップの四八、八五三部（日本人四六、二二〇部・朝鮮人二五、六六部・他は少数の外国人・以下同様）である。これにたいし『大阪朝日新聞』が四一、五七二部（日本人三九、四五六部・朝鮮人二、〇四六部）で第二位に着けている。そして時期がやや跳ぶが、戦中期最後の調査となる一九三九年には、『大阪毎日新聞』がやはりトップの八三、三三九部（日本人六八、九五六部・朝鮮人一四、三一九部）、そして『大阪朝日新聞』が七二、八五八部（日本人六〇、二七一部・朝鮮人一二、五二七部）となっている（以上の数値は『韓國言論年表（一九一一〜一九四五）』一九七三年による）。この一〇年間の部数全体の伸びもさることながら、朝鮮人読者の急増が注目される。この両紙は、いわゆる「内鮮一体」という国策の片棒を担いだことがきわめて明瞭である。

本書の概要と特色

◆ 昭和期の「外地」の動向を知る格好の史料
『毎日新聞』が、いわゆる外地で発行した朝鮮、満洲・大陸、台湾の地方版のうち、毎日新聞社西部本社が所蔵する朝鮮版（1927年12月〜1944年9月）、満洲・大陸版（1934年12月〜1944年9月）、台湾（1935年6月〜1944年9月）を復刻する。
◆ 東アジア進出に伴って
日本の東アジア進出に伴って、多くの日本人が渡り、二大紙『毎日』『朝日』も外地へ販路を広げていった。そして部数の伸長、取材網の充実により1940年頃より、各地域では版が細分化され、朝鮮が最大５版、満洲・大陸が各２版に分かれるといった状況となる。
◆ 植民地統治
総督府や満洲国政府、本土政府が打ち出す統治政策について、各地での反応や成果が具体的に記されており、植民地統治の実態を知ることができる。さらに、各地特有の諸問題も詳述されており、地域研究に有効な史料である。また、総督府の中堅幹部、警察署長、校長など、統治の現場にいた人物についての紹介記事も有用であろう。
◆ 様々な分野の研究に
地方版である外地版は、一面の中に、政治、軍事、法制経済、産業（農業、工業、商業、運輸など）、教育、文化、スポーツ、そして犯罪、さらに生活記事、季節の話題、人物紹介など、多種多様の記事が盛り込まれている。特定の分野の研究に、また外地の地域社会の全体像の把握に、多くの情報を含んでいる。
◆ 二大紙並立について
購読数の統計では外地でも『毎日新聞』と『朝日新聞』は拮抗していた。両紙の記事の傾向、編集方針の違い、また、「外地版」がどのように位置づけられていたかなどは、今後の研究によって明らかにされるであろう。ただ、例えば昭和初期の両紙を細かく見てゆくと、大事件を除けば、同日の版でも全く違う記事が掲載されており、同じ事件でも視点の違う記事を掲載している。二紙を比べることで、より多くの情報を得ることができ、また、より立体的に事件や社会を捉えることが可能となる。