明治初期毒婦小説集成 全7巻
揃定価215,600円(揃本体196,000円)
ISBN 978-4-8433-6876-3 C3393
A5判/上製
本書の内容
江戸文学と近代文学を結ぶ、結節点に位置する毒婦もの文藝を集成。文学のみならず、ジャーナリズム史、社会学、ジェンダー研究、大衆文化論等の貴重文献。
文学が江戸時代からの戯作の延長であった明治初期、活字印刷の勃興により急速に発展した新メディアから供給される情報の中から市井の刺激的な事件をもとに、戯作者たちは「合巻」(絵入り読み物)を生み出して庶民に提供していった。その中で最も注目されたのが「毒婦小説」であった。まず、三大毒婦小説を中心に、参考資料として、新聞記事や後発本、演劇台本、俗謡などを収録し、また、早逝してあまり知られていない岡本起泉についてその作品にはじめて翻刻を付すなど、研究者や学生に有用な集成として編纂。
本書の特色
●文学、メディア史上、江戸文学と近代文学を結ぶ結節点に位置するいわゆる「毒婦もの」文藝を集成。明治10年前後に流行した小説を作者別に集成。
●明治初期文学史のみならず、ジャーナリズム史、社会学、ジェンダー研究、大衆文化論等の貴重文献集。
●変動する時代の中で、翻弄されながら壮絶な生涯を生きた女性たちの、実像と虚像を探る文献集。
●諸本が散在している現状を鑑み、良本を中心にこれを体系的に編纂し収録。
●詳細な解題および多様な参考資料を付す。初学者の学習・研究の基礎的資料集。
●特におすすめしたい方●
日本文学、江戸文学、近代文学、明治文化史、明治社会史、ジェンダーの研究者、学生。大学図書館など。
監修のことば 中村正明(國學院大學文学部教授)
明治初年代から十年代にかけての文学界は江戸時代からの戯作の延長にあり、その旧来の戯作の枠組みの中に新しい時代の風俗や文化を盛り込んだ娯楽的読みものが多く読まれていた。その一方で、活字印刷の勃興により新聞、雑誌等の新メディアも急速に発展していく時期であった。明治の人々は新しいメディアによって供給される新しい情報を貪欲に求めていったのである。そこで、戯作者たちは、新聞に掲載された市井の刺激的な事件事故の記事を基にした合巻(絵入り読みもの)を生み出し、新古を合わせた読者たちを楽しませることに腐心する。その最も注目された題材が「毒婦」と呼ばれる女性たちで、実在の彼女たちの犯罪物語が叢生されていったのである。その代表が久保田彦作『鳥追阿松海上新話』や仮名垣魯文『高橋阿伝夜刃譚』、岡本起泉『夜嵐阿衣花廼仇夢』である。明治十一年から十五、六年にかけて流行したこれらの毒婦小説というべき作品群を網羅的に集成することで、その時代の息吹と勢いを知ることになる。
※収録作品・資料は、変更する場合があります。
主要作品の梗概
鳥追阿松海上新話
明治十~十一年、小新聞『かなよみ』の連載記事を合巻化した作品。お松は江戸木挽町の貧民窟に住む娘で、新内流し(鳥追)をして暮らしており、美人として評判が高かった。その美貌を利用して、慕い寄る元徴兵隊の濱田正司や呉服屋の手代忠蔵を、情夫の大阪吉と結託して騙し、金をむしり取っていく。やがて官憲に追われて東京から出奔し各地を逃げ回るが、後に病死する。
高橋阿伝夜刃譚
明治十二年二月末、『かなよみ』に記事掲載直後、合巻化された作品。上野国(群馬県)生まれの高橋お伝は夫とともに故郷を出奔するが、その途次に夫が癩病にかかる。お伝は献身的に看病するが夫は亡くなってしまう。その後、上京したお伝は、情夫を作ったり売色したりして身を持ち崩していく。やがて金目当てで古着商を殺害して逮捕されたお伝は、裁判のすえ斬首の刑に処せられるのだった。
夜嵐阿衣花廼仇夢
明治十一年、『東京新聞』の連載記事から合巻化された作品。金持ちの妾だったお衣は、呉服商の伜角太郎と出会い忍び会うようになるが、それがばれて追い出されてしまう。その後、角太郎に縁談が持ち上がると彼もまたお衣から離れていく。お衣は芸者に戻るが、金貸し業の士族小林金平に身請けされた。ところが、彼女は歌舞伎役者の嵐璃鶴にのめり込み、邪魔な金平を毒殺してしまう。その後逮捕、処刑された。
作者紹介
久保田 彦作(くぼた ひこさく) 1846(弘化3)年~1898(明治31)年
明治初期の戯作者、歌舞伎作者。江戸生まれか。幕臣の家に養われたが放蕩の末、五代目菊五郎付きの作者となり、また、一時東京府に奉職したが、劇界に戻り河竹黙阿弥門下の歌舞伎作者となる一方、仮名垣魯文に引き立てられ、「仮名読新聞」に関わった。1877(明治10)年『鳥追阿松海上新話』を刊行し、戯作者として名を上げた。その後、「歌舞伎新報」の主筆となるなどし、黙阿弥四天王の一人とも呼ばれたが、のち、劇界を離れることとなった。
仮名垣 魯文(かながき ろぶん) 1829(文政12)年~1894(明治27)年
江戸末期から明治初期の戯作者、新聞記者。江戸京橋生まれ。生家は魚屋で奉公に出されたが、戯作本を愛読し、文人に可愛がられ、戯作者花笠文京に入門した。放蕩の後、合巻類を刊行し、出版業者の下請け仕事に携わりながら際物作家、ジャーナリストとして基礎を固めた。明治に入ると『万国航海 西洋道中膝栗毛』や『牛店雑談 安愚楽鍋』など開花期風俗小説によって花形作家となった。その後、新政府の実学尊重の意向に沿った著作に携わったが、1875(明治8)年「仮名読新聞」を創刊し、1879(明治12)年に『高橋阿伝夜刃譚』によって作家としてカムバックした。その後戯作界のボス的存在となっていたが、1890(明治23)年、文壇を引退した。
岡本 起泉(おかもと きせん) 1853(嘉永6)年~1882(明治15)年
明治初期の戯作者。新聞記者。江戸深川生まれ。商家の出であるが1877(明治10)年、東京魁新聞に入社し活躍した。1878(明治11)年に『夜嵐阿衣花廼仇夢』、1879(明治12)年に『其名も高橋毒婦の小伝―東京奇聞』など実録もので人気を博した。後者は仮名垣魯文と競作となった。1880(明治13)年からは有喜世新聞で活躍し、実話に基づく小説を多く発表したが肺患のため30歳で早逝した。
明治初期毒婦小説集成 第1回配本・全2巻
刊行年月 2025年04月(予定)
定価61,600円
(本体56,000円)
ISBN978-4-8433-6877-0 C3393
明治初期毒婦小説集成 第1巻 久保田彦作 篇 ①
刊行年月 2025年04月(予定)
定価30,800円
(本体28,000円)
ISBN978-4-8433-6878-7
鳥追阿松海上新話 三編九冊
(合巻・明治十一年二〜三月・国文学研究資料館所蔵)
鳥追お松の伝
(つづきもの・『かなよみ』・明治十年十二月十日~十一日、十一年一月十一日中絶)
鳥追阿松海上新話 一冊
(活字・明治十九年十月・大川錠吉)
鳥追お松くどき 初~二編二冊
(俗謡・明治十三年・吉田小春)
廿四時改正新話 一枚
(絵本番付・明治十一年四月・東京春木座初演)
廿四時改正新話 三枚
(浮世絵・明治十一年・豊原国周画)
鳥追於松海上話 一冊
(芝居筋書・明治十一年五月・大阪戎座初演)
鳥追於松海上話
(脚本・明治二十九年・勝諺蔵・『演劇脚本 米国革命史╱鳥追於松海上話』収録・中西貞行)ほか四点
明治初期毒婦小説集成 第2巻 久保田彦作 篇 ②
刊行年月 2025年04月(予定)
定価30,800円
(本体28,000円)
ISBN978-4-8433-6879-4
鳥追お松 一冊
(速記本・明治三十三年一月・錦城斎貞玉講演・中村惣次郎)
絶世の美人 鳥追お松 一冊
(速記本・明治三十三年六月・桃川燕林講演・一二三館)
明治初期毒婦小説集成 第2回配本・全2巻
刊行年月 2025年08月(予定)
定価61,600円
(本体56,000円)
ISBN978-4-8433-6880-0 C3393
明治初期毒婦小説集成 第3巻 仮名垣魯文 篇 ①
刊行年月 2025年08月(予定)
定価30,800円
(本体28,000円)
ISBN978-4-8433-6881-7
高橋阿伝夜刃譚 八編二十四冊
(合巻・明治十二年二~三月・国文学研究資料館所蔵)
明治初期毒婦小説集成 第4巻 仮名垣魯文 篇 ②
刊行年月 2025年08月(予定)
定価30,800円
(本体28,000円)
ISBN978-4-8433-6882-4
お伝の助命状
(新聞記事・『仮名読新聞』・明治九年九月十三日)
高橋阿伝のはなし
(つづきもの・『かなよみ』・明治十二年二月一日~二月二日中絶)
東京曙新聞 八七九号
(新聞記事・明治九年九月十二日)
横浜毎日新聞 一七三九号
(新聞記事・明治九年九月十二日)
郵便報知新聞 一八〇一号~一八〇三号
(新聞記事・明治十二年二月一日〜四日)
毒婦お伝のはなし
(新聞記事・『東京絵入新聞』一〇八九号~一〇九八号、一一〇〇号~一一〇四号・明治十二年二月一日~十三日、明治十二年二月十五日〜二十一日)
高橋阿伝夜刃譚 一冊
(活字・明治十九年・自由閣)
高橋お伝積悪譚 一冊
(銅板絵本・明治二十年・村山銀治郎)
高橋おでんくどき 三篇六冊
(俗謡・明治十三年・吉田小吉)
綴合於伝仮名書
(脚本・明治二十二年・河竹黙阿弥・『演劇脚本上巻』収録・吉村いと)
綴合於伝仮名書 三冊
(合巻・明治十二年・武田交来)
綴合於伝仮名書 三冊
(合巻・明治十二年・篠田仙果・山村金三郎)
綴合於伝仮名書 四種
(浮世絵・明治十二年五、六月)
①上州富岡小澤店の場
(三福対・豊原国周画)
②横浜海岸根岸道の場
(三福対・豊原国周画)
③不明(三福対・楊州周延画)
④東京府裁判所内の場
(三福対・梅堂国政画)
『高橋阿伝夜刃譚』と魯文翁
(随筆・大正十五年・野崎左文『明治文学名著全集 高橋阿伝夜刃譚』収録・東京堂出版)
明治初期毒婦小説集成 第3回配本・全3巻
刊行年月 2025年12月(予定)
定価92,400円
(本体84,000円)
ISBN978-4-8433-6883-1 C3393
明治初期毒婦小説集成 第5巻 岡本起泉 篇 ①
刊行年月 2025年12月(予定)
定価30,800円
(本体28,000円)
ISBN978-4-8433-6884-8
夜嵐阿衣花廼仇夢 五編十五冊
(合巻・明治十一年六月・国立国会図書館所蔵)
毒婦阿衣の伝
(つづきもの・『東京さきがけ』・明治十一年五月二十八日~?)
郵便報知新聞(つづきもの)
夜嵐於衣花廼仇夢 一冊
(活字・明治十九年十二月・鈴木金次郎)
東京日日新聞 第三号(錦絵新聞)
明治初期毒婦小説集成 第6巻 岡本起泉 篇 ②
刊行年月 2025年12月(予定)
定価30,800円
(本体28,000円)
ISBN978-4-8433-6885-5
東京奇聞 七編二十一冊
(合巻・明治十二年二~五月・早稲田大学図書館所蔵)*翻刻を附す。
阿伝の咄
(つづきもの・『東京魁新聞』・明治十二年一月一日~五月六日完)