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• 書誌書目シリーズ100「戦時下における外国文献解説 Ⅱ」のカタログはこちらです。（pdf/3,553KB）

本書の内容

欧米新刊書籍の詳細かつタイムリーな紹介雑誌。戦争の跫音が聞こえ出した、第二次世界大戦前夜から開戦初期を復刻。

刊行のことば 近代日本研究家 宮里立士

　今回『戦時下における外国文献解説㈼』と題し、『日本読書協会会報』の昭和十三年（一九三八）十一月号（第二一七号）から昭和十六年（一九四一）三月号（第二四五号）までの全二十九号を復刻する。そしてこれを第一回配本・第一巻〜第八巻（第二一七号〜第二三二号）、第二回配本・第九巻〜第一五巻（第二三三号〜第二四五号）に分けて刊行する。
　『日本読書協会会報』とその発行者である日本読書協会については、前回刊行した『戦時下における外国文献解説』別巻の解説で説明した。そしてその際に日本読書協会が海外（特に英米の）新刊書籍を抄訳し紹介することを目的にした団体であること、また『日本読書協会会報』は、大正十年三月（第一号）に創刊され、昭和十九年三月（第二八一号）まで刊行された会員制の月刊誌であると述べた。しかし、そこでこの『会報』と日本読書協会の内実を伝える資料が不足していることも併せて指摘した。とはいえ、確認できた日本読書協会『入会者名録』（同じく別巻に収録）からは、会員は一〇四三名（個人七八七　法人二五六）。会員には、政財官界及びジャーナリズムの名士が名を列ね、陸海軍、内務省、外務省等の各官署、朝鮮総督府等の植民地官庁、旧制高校等の教育機関も会員であることが解った。会費は年額一二〇円、半年額は六〇円と、当時として高額であり、ここからその購読者層が、当時の日本社会のごく限られた層であったことも窺われた。
　第一次世界大戦後の、安定のうちに、「危機」もはらむ時期に創刊された『会報』は、今日の眼で観ると、来るべき大戦を予感させる外国文献の紹介と、同時代の米英を中心とするクオリティーの高い文献を精力的に紹介しようと努める姿勢が目立っている。特に今回復刻する号の期間には、ドイツ軍のポーランド侵攻で第二次世界大戦が始まり（一九三九年九月）、フランスの降伏（一九四〇年六月）を間に挟み、戦後一般化したこの大戦を「連合国対枢軸国」という図式にあてはめ、国際社会が対立してゆく様を浮き彫りとする。それを改めていえば、ヨーロッパでは、大戦前夜に始まり、フランス降伏という、戦争が第一の局面を終え、独ソ戦に突入する次の局面に差しかかる時期である。太平洋・アジア方面においては、「日中戦争」の収拾困難が、日米対決を招き、その打開のために始まり結局、失敗した日米交渉の前段階に当たる。
　このような状況を反映し、『日本読書協会会報』も英米事情と並び、ドイツの内情を探索したり（「ミュンヘン休戦」第二二一号、「ヒットラーの十二使徒」第二三八号など）、日米関係、あるいは日本と「支那」に関係する論考（「日米関係四十年」第二二〇号、「支那と日本」第二二六号など）や軍事関係や諜報、プロパガンダに関する文献が多く紹介されている（「欧洲列強の軍備」第二二九号、「海戦と巡洋艦」第二三五号、「欧洲の秘密諜報機関」第二四〇号、「制空権上・下」第二四二号・第二四三号など）。また列強を取り巻くヨーロッパ諸地域の事情（「東南欧洲概観」第二三〇号、「バルカン事情」第二四一号など）や、イギリスの最も重要な植民地であるインド独立指導者も紹介するなど（「ガンヂの運動」第二三二号など）、前回復刻した分と同じく多岐に亘っている。
　総じていえば、大戦前夜から開戦初期の緊張や切迫する雰囲気を伝える文献を紹介している。が、またそれらといささか趣きの違う、今日でも「古典」的地位を占める文献の紹介もいち早く行っている（「全体主義の検討」第二二九号、「都市の文化上・下」、第二三一号、第二三二号など）。
　それらについては個々の解題および第二回配本の解説で改めて説明したい。
　今回復刻する昭和十三年十一月号から昭和十六年三月号までは前回の復刻刊行に遡る時期のものであるが、本資料は、戦時下に、当時の為政者、エリート層が、どのような海外の一級文献にリアルタイムで触れえたかを教えるものである。そして彼らが、戦時下にこれらから何を読み取ったかを想像するとき、興趣の尽きない資料でもある。

◆本書の特色◆

●第二次世界大戦前夜から開戦初期にかけての米英を中心としたクオリティーの高い文献を紹介。
●人文社会科学の現在では古典となった文献の日本初の紹介が確認できる。
●時局を反映した軍事と政治、経済、諜報宣伝などの戦時体制（総力戦）に関する論考を多く収録。
●全体主義国家の独裁者（ヒトラー、スターリン等）の初期研究の掲載。
●解題として各巻に収録作品の要約等を収め、最終巻に解説を収録。