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戦時期朝鮮における「新体制」と京城帝国大学

戦時期朝鮮における「新体制」と京城帝国大学

[著] 永島広紀

定価10,450円(本体9,500円) 
ISBN 978-4-8433-3469-0 C3021
A5判/上製/函入
刊行年月 2011年07月 ※品切れ

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本書の内容

朝鮮の知識人層による行政、司法、文化・社会教育等に跨がる行動と思想を詳細に検証。植民地朝鮮の「革新」と近衛内閣期の「新体制」運動との連関を照らし出した実証的研究。

■著者
永島広紀(ながしま・ひろき)
佐賀大学文化教育学部准教授。昭和四十四年十一月七日生、福岡県出身。筑波大学第一学群人文学類卒業。九州大学大学院人文科学府博士後期課程修了、博士(文学)。外務省専門調査員(在釜山日本国総領事館勤務)、佐賀大学講師・助教授等を経て現職。主要著書『第二期日韓歴史共同研究報告書〔教科書小グループ〕』(二〇一〇年)/『大韓民国の物語』(翻訳、李栄薫著、文藝春秋、二〇〇九年)/『植民地帝国人物叢書 朝鮮編』(編集、ゆまに書房、二〇一〇年)など。
(※本データはこの書籍の刊行時のものです)

■本書の特色
●「京城帝国大学」関係者による植民地朝鮮の行政、司法、文化、社会教育等への関与に注目し、その行動と思想が1940年代の「新体制」運動と連動していることを示す実証研究。
●多くの史料を博捜しつつ、「支配と抵抗」の史観に距離を置いて、知識人層の行動を分析。
●各種の思想問題の舞台として、「革新」「科学」「転向者」「国史/朝鮮史」「国語改良」など、広範な問題群を設定。

本書の構成について(本書「序論」より抜粋)

 詳細は各章を読んでいただきたいが、読者の便宜を考え、ここで本書の構成について簡単に説明しておきたい。まず本書の「第一部」においては、朝鮮におけるいわゆる「内鮮共学」としての学知の拠点であった「京城帝国大学」、とりわけその予科教授(化学担当)の津田栄と彼の周囲に集まった生徒・学生による日蓮宗系修養サークルとしての「立正会」、そしてこれが発展する「緑旗連盟」なる社会教化を目指す任意団体の活動史とその主要メンバーの言論的活動を細微に検証することにより、この団体出身者たちが戦時下の国民総力運動の事務局運営に参画していったことの史的な位置づけを明らかにすることを試みた。これによって「第一部」においては従来の「植民地統治史」研究、あるいは「日帝」期研究といったそれぞれが多分に没交渉的である研究視角から本研究は意図的な脱却を目指し、少なくとも当該運動の実務担当者たちが近代日本における「革新」の中核に朝鮮を位置づけようとする旺盛な活動を展開させるとともに、かつ京都学派によるいわゆる「近代の超克」論議とも共鳴・共振する思想的行動の規範性を有していたことを明らかにした。
 以下、章別にその要点を摘記しておこう。
 第一章「昭和戦前期の朝鮮における『右派』学生運動論」では、本書におけるその検証作業の土台部分となる「緑旗連盟」の結成時から戦時期にかけての活動史を、その創始者たる津田栄と京城帝大予科立正会のメンバーの履歴を調査することから始め、特にその思想・行動においては里見岸雄の「国体科学」の深い影響を受けていることを実史料に基づき検証した。そしてまた、第二章以下にて順次に述べていくいくつかの論点を提示し、またこれらを次章以降に繋げるための整理を行うことに努めた。
 第二章「戦時下の朝鮮における新体制運動と『文化』運動」では、戦時体制下において日本内地と連動する形で組織される新体制組織としての「国民総力朝鮮連盟」に関して、その人事的な組織構造を明らかにするとともに、津田栄の実弟にして京城帝大哲学科出身の津田剛が、同連盟で宣伝部長を務めることなることの背景とその意味とを、とりわけ総動員体制下のさまざまな「文化」問題との関連に重点をおいて考察した。
 第三章「戦時下の朝鮮における〈史料〉と〈史述〉の位相」は、国民総力朝鮮連盟では編輯課長として機関誌の編集に従事していた森田芳夫が京城帝大史学科(朝鮮史学専攻)出身にして、緑旗連盟の幹部職員でもあったことに着目して、彼の「世界史」観に基づく朝鮮史論を検討するに際して、まずは近代日本における「朝鮮史研究」の軌跡の上に京城帝国大学と朝鮮史編修会という性格の異なる研究機関における史料編纂と歴史叙述のあり方を位置づけ、また朝鮮総督府学務局における「国史」教科書編纂にまで視線を延ばしつつ検証を試みた。
 続いて「第二部」においては、右記の緑旗連盟や国民総力運動と連携しつつも、それぞれの内部的な行動理念に基づいて各種各様の活動を展開していた団体・組織・個人を個別に、しかも相互の補完関係を常に念頭に置きながらその活動の軌跡を史的に復元することに努めた。具体的には、「国語」普及・転向者「善導」にかかる諸事業に関与する「朝鮮総督府学務局編輯課」・「保護観察所」・「東学系類似宗教団体」・「朝鮮儒道連合会」等々といった一見して相互に異質に見える団体・運動の中に通底する、観念的な精神論とは対極にある極めて強い「社会革新」への指向性を、むろんその限界をも見据えつつ、具体的な人的相関の中から摘出することを試みた。
 第四章「新体制下の朝鮮における『醇正ナル国語』の再編成」では、第三章にて取り扱った歴史教科書の編纂とともに朝鮮総督府学務局編輯課における主要業務たる「国語」教科書編纂の史的な推移を、森田梧郎なる編修官の「国語・国字」改良論を基軸に再構成するスタイルにて、これがさらに戦時下における国語「普及」運動においていかに取り扱われていったのかを当事者たちの発言を元に復元した。
 第五章「日本統治期の朝鮮における転向と思想『善導』の構図」は、戦時下にあって文教当局とは全く異なる立場から国語普及を手掛けていた保護観察所による「大和塾」活動の展開過程を、まずは日本内地における司法保護制度の成立史から繙き、それがいかに朝鮮に移入されたかについて思想検事・長崎祐三の活動を検証することを中心にして史的に再構成することを試みている。
 第六章「朝鮮の右派民族運動におけるその『復古』と『革新』」では、本研究を締めくくるに際して、第一~五章が統治機構側からの視点で検証を行ったことに対して、今度は朝鮮側の知識人・民族運動指導者たちの側からの視点で、彼らが戦時下における朝鮮の「新体制」をいかに支え、あるいはそうせざるを得ない状況があったのかを、とりわけ東学系の各宗教団体における「時局対応」の様相を具体的に、かつそれらの内的な行動論理から読み解くことに努めた。