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• 「日本弁護士協会録事」のカタログはこちらです。（pdf/2,511KB）

本書の内容

明治期の弁護士の活動、及び司法の現実や社会状況を克明に記す、日本弁護士活動歴史史料。

「日本弁護士協会録事」刊行にあたって　　三阪佳弘（大阪大学高等司法研究科教授）

　日本弁護士協会は、1896年6月に東京弁護士会の鳩山和夫、菊池武夫、磯部四郎、岸本辰雄らが発起人となって東京で開かれた創立総会を経て、翌年の創立大会で発足した。
　戦前日本の弁護士は、制度的に司法官より一段低いものとして、政府＝司法省の厳しいコントロールのもとに置かれていた。しかし、このことは、戦前の弁護士層をして、在朝法曹である司法官との対抗関係で、「在野法曹」としての職業的威信を「法律ノ発達、人権ノ伸張ヲ図ル」（鳩山「日本弁護士協会ノ任務」『録事』1号）こと、支配体制に対抗して抑圧された国民の救済と権利実現に見出させることになった。この伝統は戦後日本の職能団体としての弁護士組織が基本的人権の擁護と社会正義の実現に強くコミットする歴史的基盤となっている。
　こうした日本の弁護士のあり方を歴史的に探っていくとき遭遇するのは、高木益太郎を中心とした『法律新聞』と、日本弁護士協会による『日本弁護士協会録事』（後に『法曹公論』）との二誌による弁論活動である。いずれも、明治憲法体制が一応の確立を見て、法典編纂事業の見通しがついた1890年代後半に発刊され、明治後半期から昭和戦前期にかけて、その時々の立法、司法制度、政治に関する評論・研究、外国法研究、判例批評、法曹界情報等々が収録されており、「在野法曹」としての弁論活動・「公論」形成を支えてきた。
　この二誌を読み比べると、いくつかの点で共通性とともに力点の違いが見られる。
　とりわけ明治期においては、高木を中心とした編集部による法律・司法をめぐる評論と判例速報を中心に構成された『法律新聞』に対して、『録事』は、毎月開催される日本弁護士協会評議員会の立法・司法制度に関する一定のテーマ（たとえば、捜査機関のとる聴取書問題、司法省廃止の是非、司法官養成問題等々）についての討論記録を中心としていた。法律、司法制度をめぐる動きを速報する『法律新聞』に対して、その時々のアクチュアルなテーマについての弁護士層の様々な意見のぶつかり合いの中から一定の弁護士層の「公論」が形成されることを目指していたのが『録事』である、という見方もできるかもしれない。たとえば、小田中聰樹『刑事訴訟法の歴史的分析』（日本評論社）は、このような『録事』が果たした弁護士層の一定の「公論」形成という機能に着目して、刑事訴訟法の歴史分析の面で『録事』を活用した代表的な研究である。
（中略）
戦前日本の法制度の実体を知るうえで、その担い手の一方の極であった弁護士層の視点からの『録事』の様々な情報は、大変興味深いものであるといえよう。

【本書の特色】

●明治26年、弁護士法が施行後、結成された最初の全国的な弁護士団体である日本弁護士協会の機関誌。
●司法実務における弁護士の存在を強くアピールする機関誌として大いに注目された。
●「日本弁護士協会録事」の刊行は、弁護士会の自治権獲得への記念碑的な第一歩と評価される。
●明治中期から大正にかけての日本の司法実務の充実とその変化をクロノロジカルに、かつ、詳細に記録。
●日本における法曹集団―裁判官・検察官・弁護士―の「発生」と、その「生態」「実相」を読みとることができる。
●弁護士の地位向上と自己改良、陪審法など刑事法の改正や司法制度全般の諸問題などが取り上げられ、在野法曹たちが関心を抱いたその時々のトピックが記される。
●別巻として詳細な解説を付す。